映画と水を巡る冒険 上野〜青森〜乱れ雲の宿〜札幌

10月30日(木曜日)、函館・青森フリーきっぷを使って、青森と北海道に向かう。
20時過ぎ、会社から上野へ直行。行きは21時45分発の寝台特急『あけぼの』を使う。大きなリュック、首からカメラ、腰には手ぬぐい、手には東京土産、これから青森に帰る人のようだと会社の人に笑われた。
あらかじめ確認しておいた入線の時刻より前に上野駅13番線ホームへ、かならず自分の乗る列車の入線を見守りましょう。旅の始まりの重要な手続きです。怠ることのないように。

『あけぼの』のヘッドマークを撮影する人々を撮影。


席はB寝台ソロを取っている。個室といってもカプセルホテルをちょっと広くした程度でベッドの脇に荷物を置けばもういっぱい。
あとは鉄道一すぢに またたくひまよ青森も

などと鉄道唱歌を歌ってみたが、目が覚めたらまだ秋田の手前だった。明けて10月31日(金曜日)。



9時56分、青森到着。



この駅の向こうに八甲田丸メモリアルシップと津軽海峡冬景色歌謡碑があるけど、残念ながら今回はパス。


10時20分発、十和田湖行きJRバス『みずうみ8号』に乗車。函館・青森フリーきっぷを使うとこのバスにも乗り降り自由。ただし十和田湖までは片道3時間。こんなのに乗るってのはよっぽど暇なんだろうな。
車中ではバスガイドがわりの音声アナウンスが、お節介にも見どころをひっきりなしに(3時間も)教えてくれて、やかましいのでなんとかしてほしいものだ。
バスは、八甲田山を左手に眺め、笠松峠を越え、酸ヶ湯温泉、猿倉温泉を巡って、12時05分に蔦温泉に到着。ここで下車。

蔦温泉旅館。こういう旅館には泊まれないのが、ひとり旅の辛いところ。


わざわざ青森から十和田湖コースを選んだ理由は、成瀬巳喜男の『乱れ雲』のロケが行われたこの旅館を訪ねてみたかったから。日帰り入浴もできるので、宿泊はできなくとも湯に浸かれば加山雄三気分になれる。
入浴料を払って、まず泉響の湯へ。なんと誰もいない。お湯は透明で温度はちょうどいい具合、浴槽のヒバの香りが気持ちいい。次に久安の湯へ。こちらは時間によって男女別になっている。日帰り入浴の時間は男湯になっている。こちらも誰もいない。広い浴槽を独占である。来た甲斐があったってものだ。いい気分になって加山雄三の『大学節』を口ずさんでしまう。
風呂からあがって受付に戻ると、ご主人らしきお爺さんが立っていた。川本三郎が訪ねたときに話を聞いたのは、こちらの人に間違いなかろうと思って、尋ねてみたところ、ここ(本館)の二階に加山雄三司葉子が泊まったとのこと。うれしくなってうろうろしていたら、ご主人が手招きをしている。

「階段をあがると長い廊下があります。その両脇の部屋に泊まられたんです。雰囲気だけでも味わいたいのなら、どうぞ上がって見て行ってください」
えぇ!いいんですか?というわけで本館二階の廊下を撮ってきた。

暗いうえに妙にあせって手ブレしてしまったけど、雰囲気だけでも伝わるでしょうか?


蔦温泉旅館で1時間半ほど過ごし、蔦温泉13時45分発の『みずうみ10号』に乗車して十和田湖へ。
ここからバスは奥入瀬渓谷沿いに走る。紅葉がちょうど見ごろで素晴らしい景観だった。本来ならバスを降りて渓谷沿いの遊歩道を歩きたいところだけれど、このバスで十和田湖に着くと、次の青森に戻るバスが最終なのでバスの窓から指をくわえて眺めているしかない。

十和田湖に到着すると、雨が降り出してきてあたかもシーズンオフのような寂しさ。



白鳥さんもお休みです。


ものの30分で青森行き最終のアナウンスが流れる。森光子の経営する旅館がどこで撮影されたのか探索したかったが時間も無い。いったい十和田湖まで何しに来たのやら。青森着がもっと早ければ早朝のバスに乗れたんだけれどなぁ。
十和田湖へのアプローチなら、大館や八戸からの方が近いのだけれど、青森からのコースは、八甲田、笠松峠、幾多の湯治場、奥入瀬渓谷と見どころがいっぱいなので、尻に根が生える覚悟で乗ってみるのもよろしいかと。その際は蔦温泉までは、進行方向左側に座ると八甲田山系。蔦温泉からは逆に進行方向右側に座ると奥入瀬渓谷が間近に見える。できれば焼山あたりに宿をとって、石ヶ戸から奥入瀬渓谷沿いの遊歩道を子ノ口まで歩けば、十和田湖に到着するので、ここから遊覧船に乗るのがベストでしょう。
バスは青森に18時過ぎに到着。もう真っ暗。次の札幌行きの寝台特急はまなす』の発車時刻まで、まだ4時間以上ある。どこかの飲み屋で時間をつぶそうといろいろ探したあげくに、入ったお店で頼んだ肴は特に美味くもない。早々に切り上げて別の店を探して、結局小さなバーに入ってビールを頼んだ。ここで時間をつぶすことにする。
主人と常連らしき客の会話を聞くともなく聞いていると、「マチコ巻きなんて知らないでしょう?」と、年配の女性が若い女性客に言っている。主人が「『君の名は』って映画があったんだよ、えーと、えーと誰だったけなー…」と、ずぅっと唸っているのでイライラしてきて、つい口を挟んでしまった。



そうだ!そうだ!とうなずく主人。若い女性客に向かって「あいつのお父さんだよ。あいつ、あいつ…」と、また唸ってるので、つい口を挟んでしまった。



すっかり嫌がられたところで、22時を過ぎ札幌行き寝台特急はまなす』の入線時刻になった。

22時42分発『はまなす』を撮影。もうへろへろで手ブレしまくり。寝台に横になった途端に眠りに落ちた。