子羊のように去っていってほしい

「乙女」と名のつく女性のブログに、つっこむ前に口をつぐんでしまうのは、まぎれもなく自分も未だに「少年」気分でいるからだ。毎年春が来れば、新しいスニーカーが欲しくなるし、新しいTシャツが欲しくなる。


高校生の頃は、授業中は窓の外を眺めているか、小説を読んだりしていた。さもなければ、一日中美術部室に入り浸って、ラジオを聴いたり、私服に着替えて新宿の名画座に出かけたりもした。


そんな時間は永遠に続かない。高校3年の終わりには、みんなもうとっくに進路を決めていた。僕の将来はまったくの白紙で、進学も就職も決めていなかった。早速親が呼び出されて面談になった。十代のコドモの言うことなんて、2人の大人からしてみたら絵空事だったろう。世間がどんなに厳しいかを散々聞かされ、僕は木っ端微塵に打ちのめされた。面談の後、美術室でアグリッパやモリエールに囲まれながら、長いこと独りっきりで座っていた。どこからも力は湧いてこなかった。
しばらくすると、美術室に向かってくる女の子が窓の外に見えた。当時つきあっていた、ひとつ年下の女の子だった。部屋に入ってきて僕の顔を見るなり「だいじょうぶ?」と聞いてきた。そうとうひどい顔をしていたのだろう。
今でも、あの2月の寒々しい美術室の窓からの光と、彼女の顔を思い出す。少なくとも彼女はいつも僕の味方だった。


僕は、その後とりあえず怪しげな仕事を決め、クソッタレな実家を出ることに決まり、無事に卒業式を迎えた。
当日「別れるわけではないから、ボタンはいらないよ」と彼女は言った。(そんなのが流行ったのだ)


言うまでも無いけれど、この物語は、Happy Ever After ではない。数年後に我々は別れた。
それから何年も経って、僕はある会社でデザイナーの肩書きがついた名刺を手にすることになった。その時最初に思った。
この名刺を見たら彼女は喜んでくれるかな?