第一小僧列車

ホビトン(id:hobbiton)さんの甥っ子、小僧先生を借りて、想像上の金沢阿房列車をしたててみる。


「ハヤカー君、北陸までブユートエーンに乗ってみたいと思わんかね?」
「と伝ひますと『北陸』ですか?」
「今はそんな名前なのかい?」
「さふです」
特に用事などは無い。ただネンコデンシャで金沢に行ってみたい。たださふ思っただけだけなのだ。問題は金策である。両親と叔母をあたってみたところ、すんなりと工面できた。
上野でハヤカー君と落ち合う。いつものドブネズミのやふな暗い顔をして、ズタ袋のやふな鞄をさげてゐる。
無事、列車が発車したので、二人アイスクリンで一献始める。
「先生、この列車は距離が短いので、明日は早いですよ」とハヤカー君が伝ふので、早々に寝台に就く。
起きると金沢であった。さて、金沢に来てはみたものの目的は、ブユートエーンだったわけで、特に行きたい処も思い当たらない。
「なぁ、ハヤカー君、もう帰ろうかね?」
「さふですか。もう帰りますか」
北陸本線の各駅に揺られて、直江津まで行ってみやうと伝ふことになった。
「ハヤカー君、この列車は近所の駅にいつも止まってる電車と同じぢぁないかい?」
413系ですね」
「おやおや、こんなトンネルの真ん中に駅があるのかい?」
「ここは筒石です。親不知を避けてトンネルを通したら、駅が地下になってしまったのです」
「降りてみよふぢゃないか」
二人でアイスクリンを頬張りながら、しばらく日本海を眺めていた。アイスクリンも無くなってしまふ。二人の男が同じ方向を見ているのは、気違いとその付き添ひに見えてしまふのではないかと気にかかる。ハヤカー君は碌な人生を歩んではいないだろうが、私よりも年長なので、気違ひの付き添ひの方に見られる可能性は高い。そう思うと忌々くなってきた。ハヤカー君をせきたて、駅へと向かった。次の列車がやってきた。
「ハヤカー君、今度のあのまっ平らな顔はなんだい?」
「クハ715形です」
北陸本線ってのは面白いもんだね」