わが谷は緑なりき
以前、ゲーム会社に勤めていた頃、「天空の城ラピュタ」を下手糞に模倣したタイトルに関わったことがある。デザイナー達は机の上に宮崎駿やジブリ関連のデザイン集を重ねて、それを見ながら仕事をしていた。その現場で宮崎アニメが産み出された源泉について語られることは一切無かった。「ラピュタ、ラピュタ言ってるけどさ、お前ら、ジョン・フォード観たことあるのかよ」と罵りたかった。そんな縮小再生産で神経をすり減らしたくなかった。そんなことが何遍もあって、嫌気がさしてゲーム業界を辞めてしまった。関わったタイトルには、とことん恵まれなかったと思う。
ラピュタの炭鉱から帰ってくる男たちのシーンを観て、ジョン・フォードの『わが谷は緑なりき』の影響を語るのは早計だとしても、そこに映像の相似を感じるのは自然なことではないだろうか?紅豚のひたすら殴りあう男たちを見て『静かなる男』との類似を感じるのはごく当然では無いだろうか?まぁ、観てないどころか、どうせ名前すら知らねーんだろうけどさ。
そうやって、ぶつぶつと分かる人には言い続けてきたんだけれど、そう主張している本人が『我が谷は緑なりき』のDVD買ったまんまでぜんぜん観てないじゃんと思って、昨夜見直した。
素晴らしい…。もうすべてが素晴らしい。撮影とか照明とか演技とか、並べるたてるのすら憚れる。涙が絶えない。悲しいから泣くってばかりじゃない。嬉しく涙が出てくる。この一家に生まれたかったと思う。この谷に生まれたかったと思う。楽しいときも悲しいときも、彼等とともに肩を組んでビール飲んで唄えればどんなに素晴らしいだろうかと思う。
ひとつひとつの台詞が詩のように完成されている。自分の大好きな映画が、実はこの映画に大きな影響を受けていることが分かる。
その素晴らしい家族の成員が、次第に谷を去っていく。小津の映画でもそうだけれど(彼がジョン・フォードの影響を大きく受けているのは有名)*1美しい円を描いていた共同体のピースが、ひとつひとつ欠けていくのは、なんと切ないことだろう。それが、心の前立腺に触れるのだ。
- 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
- 発売日: 2006/10/13
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*1:正確に言うと、小津が影響を受けたのは、フォードの撮影スタイルですね。